日米両政府が7月、有人月探査に関する共同宣言を発表し、日本人初の月面着陸が現実味を帯びてきた。日本にとってどんな意義を持つのか、誰がいつ降り立つのか。日本の有人宇宙開発を牽引(けんいん)してきた宇宙飛行士の若田光一さん(57)に見通しを聞いた。
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-共同宣言をどう見る
日本人の活動領域として、月面というターゲットが明確になった。毛利衛さんによる地球低軌道での活動から始まった日本の有人宇宙開発が、月へと広がるのは本当に大きな飛躍だ。
-日本人が月面に降り立つ意義は
日本が優れた技術で月探査に取り組み、日本人飛行士が月面で活躍する姿を見た若い世代が科学技術への強い興味を抱くことで、科学技術創造立国としてのさらなる発展が期待できる。教育的な意味は非常に大きいと思う。
-月に行く時期は
できる限り早く、(米国が国際協力で建設する月周回基地の)ゲートウエーや月面での活動を期待しているが、現時点では決まっていない。私の希望では、2020年代の実現を目指し、米航空宇宙局(NASA)を含めた国際的なパートナーと調整してほしい。
-月面に立つ頻度は
初期の月面着陸は恐らく2人ずつだ。米国の計画では、1年に1回くらいの頻度で月面を訪れるので、米国人以外の飛行機会はかなり限られてくる。国際宇宙ステーション(ISS)と同じような頻度は難しく、貴重な機会をいかに確実に獲得していくかだ。
-月面での活動内容は
今後の調整を経ないと確定的なことは言えない。月面に着陸する飛行士は、すべてのシステムを運用する必要があると思うので、月面車があれば、当然その操縦もしないといけない。
-日の丸は立てるのか
それはどうでしょう。日本が重要なパートナーとして役割を果たすことで、そういった月面での象徴的なイベントにも、つながっていくのかなと思う。
-月に行く飛行士に求められる資質とは
冷静沈着な状況判断やストレス環境下でも着実にミッションを遂行できる能力、チーム構成員としての集団行動能力などで、これはISSでも同じだ。最初は恐らくISSのような長期間ではなく、数週間の短いミッションとなる。つまり、ISSできちんと作業した人は、次の月面につながっていくだろう。
-月に行く飛行士の候補は。新規募集はあるか
日本の飛行士は皆さん優秀で実績を上げており、すべての現役飛行士が月面着陸に対応できる資質を持っている。ただ、宇宙航空研究開発機構(JAXA)には60歳の定年があるので、若い世代が行くことになるのかな。新規募集はまだ全く決まっていないが、今後も有人宇宙開発を続けていくなら、どこかの時点で行うことになる。
-欧州なども月面を目指すなかで、日本は機会をつかめるか
技術面などでいかに貢献を示せるかが鍵になる。重要なのは、わが国に優位性がある技術、将来にわたって波及性の高い技術を持つことだ。米国はゲートウエーの居住棟に加え、月面探査の有人与圧ローバー(月面車)などで日本の技術に大きな期待を寄せている。そういった期待に応えることが、日本人飛行士の活動機会につながっていく。
-期待に応えられるか
われわれの技術で克服できると思うが、難しい課題であることは間違いない。ISSにドッキングする(無人物資補給機の)こうのとりを作ったときも、米国から見ればさまざまな安全性の懸念があった。それでも当時、非常に高い挑戦をしながら、一つ一つ技術を見つけていった。
-日本の費用負担はどのくらいになりそうか
予算に関しては政府レベルの協議事項なので、具体的な数字は言及できない。月面は地球低軌道に比べると輸送コストが10倍くらいになる。地上の産業振興につながるような形で、民間の参入が本格的に進められない限り、持続的な探査は非常に難しいと思う。
筆者:小野晋史(産経新聞科学部)
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■若田光一(わかた・こういち)
埼玉県生まれ。九州大大学院博士課程修了。日本人最多の計4回の宇宙飛行を経験。2014年に日本人初のISS船長を務めた。